【開催レポート①】「豊かな学びを創るー探究・学習エコシステム・SCHOOL SHIFTー」

開催報告
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【開催レポート①】『SCHOOL SHIFT3』刊行記念プログラム「豊かな学びを創るー探究・学習エコシステム・SCHOOL SHIFTー」

知識の伝達から「創造の場」へ!マルチステージ時代の授業SHIFTと学びの未来

2026年7月18日、明治図書出版より刊行された『SCHOOL SHIFT 3』の発売を記念し、オンラインウェビナー「豊かな学びを創るー探究・学習エコシステム・SCHOOL SHIFTー」が開催されました。

急速な社会構造の変化が進む現代において、学校教育の中核である「授業」をどのようにSHIFT(転換・変革)させていくべきか。本記事では、当日に行われたプログラムを全3回に分けてレポートします。 第1回となる今回は、宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)による講演「マルチステージ時代の授業SHIFTと学びの未来」の内容を紐解きます。日々の授業づくりに悩まれる先生方にとって、これからの新しい学校教育のカタチを模索するための「未来への羅針盤」となるヒントをお届けします。

「機械の時代」から「人の時代」へ。変化する人生のステージと社会構造

宮田氏はまず、日本の社会構造と教育の歴史的変遷を振り返ることから講演をスタートさせました。 かつての19世紀以降の日本社会、すなわち「機械の時代」においては、経済が右肩上がりに成長し、情報源もテレビや新聞といった単方向で一斉配信型を行う限られたマスメディアに集中していました。この時代は「追いつき型近代化の時代」とも呼ばれ、国家や企業が主導して工業化社会を推進していました。

この時代において求められた資質能力は「読み書き算盤」に代表される基礎的なものであり、学校教育は「ベルトコンベア」のように一斉進行型で行われていました。与えられた一元的な目標や価値観に向かって効率よく知識を身につけ、操作的に組織に適応させる「収束型教育(工業社会型の教育モデル)」が極めて有効に機能しており、これが日本の近代化と戦後復興の成功、いわゆる「Japan as No.1」を支える大きな原動力となっていました。当時の人々は「良い学校から良い会社へ」という同質的な「ベルトコンベア型」の人生設計を描き、終身雇用制度のもと、「教育(〜22歳)・仕事(〜65歳)・老後(〜84歳)」という明確に区切られた3ステージ型の人生を送るのが一般的でした。この時代は、お金や不動産といった「有形(目に見える)資産」を蓄積し、物質的に豊かになることが「良い」ことと定義されていたのです。

しかし、21世紀に入り、社会は「機械の時代」から「人の時代」へとパラダイムシフトを起こしました。高度情報化、グローバル化、知識基盤社会、多文化共生社会が到来し、テクノロジーの発展によって社会構造や人々の生活スタイルが根本から変わる「人生DX(デジタルトランスフォーメーション)」の時代に突入したのです。

宮田氏は、現代社会の特徴として以下のポイントを挙げました。

  • メディアの多様化と情報の爆発:
    YouTubeやTikTokをはじめとするSNS等プラットフォームの普及により、誰もが情報発信者となれる時代になりました。情報の受発信コストが劇的に下がり、今後は生成AIによって情報がさらに自己増殖していくと予測されます。これにより、情報入手経路が多様化し、人々の価値観や生き方も多様化しています。
  • グローバル化の加速:
    技術の進歩によりコミュニケーションや物理的な移動が高速化・ボーダレス化し、地球規模でのアイデア共有や課題解決が日常的に行われるようになりました。個人がグローバルに協働・競争する時代です。
  • 人生100年時代の到来:
    医療技術の進歩により寿命が延びる一方で、企業の平均寿命は20年を切ると言われています。転職や起業、時には社会的な災害など、生涯を通じて様々なライフイベントや社会現象に遭遇する可能性が高まっています。

これらの変化に伴い、従来の「教育・仕事・老後」という固定化された3ステージ型の人生モデルは崩壊しつつあります。これからは、仕事、学び直し(再教育)、エクスプローラー(自分づくり)、インディペンデント・プロデューサー(個人事業主)、ポートフォリオ・ワーカー(副業を持つ)など、多様なフェーズを行き来しながら生きる「マルチステージ型の人生(〜100歳)」が一般的になっていくと宮田氏は指摘します。

「決まったレールに乗っていれば安泰という『大きな物語』は終焉を迎えました。これからの時代は、自ら価値観を生成し、主体的に人生をデザインしていく力、すなわち『アイデンティティ』の重要性がますます高まっています。多くの選択肢を持ち、主体的に選べる状態を創ることが、より良い人生を創る鍵となるのです」と宮田氏は強調しました。

生涯を通じた「学習社会(ラーニング・ソサエティ)」への移行と学びの再定義

社会が高度化し、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と呼ばれる現代において、教育に求められる役割も大きく変化しています。宮田氏は、知識が経済の重要な資本となる「知識基盤社会」においては、単なる表層的な資格よりも、知識を組み合わせてイノベーションを起こす「実績」や「知恵」が求められると述べました。

「知恵」とは、今までの人生経験を踏まえた価値観、知識、思考、行動、省察を掛け合わせたものであり、生成AIには代替できない人間ならではの強みです。これからの時代は、思考の柔軟性や俊敏性、情熱や関心を持ち続け、生涯を通じて学び続け、自分自身を更新し続ける(時にはアンラーン=学びほぐす)ことが重要になります。

しかし、変化の激しい現代では、数年前に最先端だった知識がすぐに陳腐化してしまいます。そのため、学校教育や職場の研修だけで一生分の知識を蓄えることは不可能です。

そこでユネスコなどの国際機関が提唱しているのが、社会全体を学習の場と捉える「学習社会(ラーニング・ソサエティ)」への移行です。学びを学校教育の枠(Education)に限定するパラダイムから、社会のあらゆる場面で起こる広範な「学び(Learning)」へとシフトさせなければならないのです。

宮田氏は、学びとは決して学校の教室の中だけで完結するものではないと語ります。 「地域の社会活動への参加、職場での新たな挑戦、家庭内での役割の変化、オンラインコミュニティでの異文化交流など、日常のあらゆる営みや経験そのものが『学び』に直結します。ユネスコは生涯学習を『終わりなき循環』と定義していますが、まさに人生の様々な場面に、将来のための学びや準備となる『リ・クリエーション(Re-creation)』の機会が隠されているのです」

「したがって、学校教育は、この生涯にわたる学びの連続という大きなプロセス上の重要な一部として位置づけ直す必要があります。また、教員自身も児童生徒と同じ『学びの当事者』として、社会の変化に対応しながら共に学び続ける姿勢が不可欠です。教員の学びは生徒の学びの相似形であり、教員が自らを再構築し自己変容していくことこそが、これからの学校を創っていくのです」

出版から1か月で重版になった
『SCHOOL SHIFT 3』の内容を
基にした講演

学校教育の再定義と「授業SHIFT」が果たす役割

では、学習社会において、これからの学校は具体的にどのような役割を担うべきでしょうか。 宮田氏は、学校が「個人のウェルビーイング(幸福)」と「社会の持続可能性(ソーシャル・サステナビリティ)」を両立させるための新たな拠点になると指摘します。

「これからの学校は、知識伝達の終着点ではありません。家庭、地域、企業、オンライン学習プラットフォームなど、多様な学習環境と児童生徒をつなぎ、学びの流れをコーディネートする『学びのハブ(総合拠点)』へと役割を転換しなければなりません。この、社会全体で学びを支えるネットワークシステムこそが『学習エコシステム(Learning Ecosystem)』なのです」

そして、この学習エコシステムを軌道に乗せ、活性化させる本質的なエンジン(起点)となるのが、今回のメインテーマである「授業SHIFT」です。

『SCHOOL SHIFT 3』でも詳しく解説されている「授業SHIFT」の鍵として、宮田氏は以下の3つの方向性を示しました。

  1. 自ら学ぶ力の育成:「自由進度学習」や「自己調整学習」を授業に導入し、子ども自身が主体的に学びを調整し、自律的にデザインする力を養う。
  2. 複雑な社会への対応:「教科横断」や「探究×キャリア教育」を通じて、複雑・高度化する現実社会の問いに対し、他者と協働して立ち向かう越境体験を創り出す。
  3. テクノロジーの活用:情報活用能力を基盤とし、生成AIなどのICTツールを自発的に選択・使いこなし、知識の先にある「知恵」を共創する学びを実装する。

これらを実現するためには、教員の役割も「従来のティーチング(一方向的な知識伝達と誘導)」から「これからのコーチング(自律的な学びを支える伴走者)」へとシフトする必要があります。また、教科書ベースの計画的な学習(顕在的カリキュラム)だけでなく、自然体験や他者との生身の協働、失敗が許容される安心な環境デザインといった「立体的な学び(潜在的カリキュラム)」を組織していくことが重要になります。

第1回のまとめ

講演の終盤、宮田氏は「学校というのは概念に過ぎない」というメッセージを投げかけました。 「学校という組織は、法令などの制度的な枠組みだけで成立しているのではなく、先生や生徒、事務職員など一人ひとりの日々の活動や関係性によって創られています。つまり、学校づくりの主役は現場の先生方一人ひとりなのです。現在の教育環境は、先生方自身が学びながら実践を積み重ねる絶好の機会です」

マルチステージ型の人生を生きる子どもたちにとって、自ら思考し、知恵を絞り、価値を創造する力は不可欠です。教員自身も学びの当事者となり、目の前の小さな「授業のSHIFT」を少しずつ実践していくことが、やがて学校全体の変革、ひいては社会全体の学習エコシステムの構築へと繋がっていくという展望が語られました。


続く第2回では、田中茂範先生(慶應義塾大学名誉教授)の講演内容をもとに、「学習エコシステム」の詳細な概念と、実践の中で進化する「リビングカリキュラム」について、さらに専門的かつ深く掘り下げてレポートします。

登壇者紹介

田中茂範 先生(慶応義塾大学名誉教授・PEN言語教育サービス代表)

コロンビア大学大学院博士課程修了(1983年教育学博士)。茨城大学助教授、慶應義塾大学教授を経て現職。専門は言語論、意味論、教育論。探究活動やPBL、SDGs、AIと教育にも精通する。慶應義塾大学では多数の博士論文指導を担当。JICA語学諮問委員会座長、ベネッセ教育総合研究所ARCLE名誉理事等を歴任し、現在は一般社団法人探究推進機構参与、一般社団法人学創機構アドバイザー等を務める。
意味論や言語教育に関する著書は100冊を超え、30年以上にわたり文科省検定教科書の編集責任者を務める。近年は探究、思考、AI、学習エコシステム等に関する論稿の発表や講演を精力的に行う。現在は複数の中学・高校で探究活動のアドバイザーや実際の授業を担当。理論と実践に裏打ちされたオーダーメイドのカリキュラム・教材開発に定評があるほか、ENSAPIA研究所にてAI時代における人間や教育のあり方を言語論の立場から発信している。

宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)

1991年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにして一般社団法人学創機構(旧:未来の先生フォーラム)代表理事、学校法人宇都宮海星学園理事、横浜市立大学特任准教授を務めるほか、新潮社『Foresight』等のメディアにて学校教育に関する論考の寄稿やフジテレビ系『Live News イット!』、BSテレ東『日経モーニングプラスFT』、TBSラジオ『荻上チキ・Session』にも出演。
単著に『教育ビジネス-子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養-』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『SCHOOL SHIFT』・『SCHOOL SHIFT2』・『SCHOOL SHIFT3』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)