【開催レポート①】一斉授業以外の選択肢を!「子どもに任せる」ことで学びが変わる——単元またぎ自由進度学習の実践と授業観SHIFT

開催報告
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【開催レポート①】一斉授業以外の選択肢を!「子どもに任せる」ことで学びが変わる——単元またぎ自由進度学習の実践と授業観SHIFT

一斉授業以外の選択肢を!「子どもに任せる」ことで学びが変わる――「単元またぎ自由進度学習」の実践と授業観SHIFT

AIやデジタルの飛躍的な普及により、知識そのものはインターネットや動画教材などを通じて、学校の外でも手軽に手に入る時代となりました。そうした大きな時代変化のただ中で、いま現場の先生方に強く突きつけられているのが「これからの学校・授業の価値とは一体どこにあるのか?」という本質的な問いです。

従来の「教員が前に立ち、一斉に知識を教え込む」画一一斉授業だけでは、一人ひとりの発達や習熟度の差、多様な特性に応じた学びを支えきれなくなってきています。しかし、「子どもに任せる授業に切り替えたいけれど、本当に学習が成り立つのか不安」「放任になってしまわないか心配」と悩む先生方も少なくありません。

2026年8月29日に開催された本ウェビナーでは、元公立小学校教員であり、現在はオルタナティブスクール「HILLOCK初等中等部」の創設・運営を務める蓑手章吾先生をお迎えしました。

前編となる本記事では、蓑手先生が公立学校や特別支援学校での葛藤を経て辿り着いた「子どもを信じて・任せて・待つ」授業観のSHIFT(転換)と、具体的に教室で実践できる「単元またぎ自由進度学習」の仕組みについて詳しくレポートします。

「指導・誘導」から「信じて・任せて・待つ」へ――特別支援学校で突きつけられた授業観の限界

講演の冒頭、蓑手先生はご自身の教員人生における大きな転機について語られました。

初任校からの数年間、蓑手先生は「子どもを惹きつける面白い授業」「自主的に動ける学級づくり」を目指し、研究を重ねていました。周囲からの評価も高く、ご自身でも「子どもを信じて・任せて・待つができている」と自負されていたといいます。

しかし、7年目に異動となった特別支援学校で、その認識は大きく覆されることになります。

「立ちましょう、体育館に行きますよ」という言葉に対し、生徒から返ってきたのは「いやだ、行かない」というストレートな拒否でした。決められたルールに従わせることが当たり前になっていたことに気づかされ、通常学級での子どもたちは「教員の意図に忖度して合わせてくれていただけだった」という現実を痛感したといいます。

さらに、教科書や決められたカリキュラムがない環境の中で、一人ひとりに合わせて作成したプリントが一瞬で投げ捨てられる経験などを通し、蓑手先生は学びの根本を問い直しました。

「それまでは『子どもに委ねても大丈夫』程度の認識でした。しかし、特別支援学校での体験を通して『子どもに委ねた方が、子どもはよりよい成長を遂げる』という確信に変わったのです。これが、私の大きな授業観SHIFTでした」

この強い確信が、その後の普通小学校での「単元またぎ自由進度学習」の実践へとつながっていくことになります。

「単元またぎ自由進度学習」とは?――一斉授業と単元内の枠を超える

令和の日本型学校教育でも注目を集める「自由進度学習」ですが、蓑手先生が実践されてきたモデルは、一般的な「単元内自由進度学習」とは一線を画します。

通常の「単元内自由進度学習」は、たとえば「円の面積(6時間)」という特定の単元の中で、時間の使い方や取り組む順序を子どもが選択する形です。

これに対し、蓑手先生が提唱する「単元またぎ(単元縦断)自由進度学習」は、特定の単元の枠組みさえも飛び越えて学びを個別最適化します。

ある時間の算数の教室では、以下のような光景が広がります。

·   今扱っている単元の課題に取り組む子

·   前の単元や前の学年の「つまずき」に戻って復習する子

·   どんどん先の単元や上位学年(時には高校数学まで)の難問に進む子

一人ひとりが自分に合った「ちょうどいい難易度の課題」を自分で選び、談笑しながらリラックスして自分の学びに向き合う。教室はまるで「ファミリーレストランのような、和やかでざわざわした雰囲気」になると蓑手先生は言います。

蓑手先生も執筆した
『SCHOOL SHIFT 3』

45分の具体的なコマ設計――ミニレッスン・自学自習・リフレクション

では、実際の45分間の授業はどのように進行するのでしょうか。蓑手先生は、明確な3つのステップでコマを構成しています。

時間段階具体的な内容・ポイント
最初の10分ミニレッスン基本は一斉授業型。解き方の解説ではなく、つまずきやすいポイントのピックアップや、生活と結びつく本質的な「問い」を投げかける。
中盤25分自学自習子どもが今日の「めあて」を設定し、自走する。解説動画(eboard等)を見たり、友達と教え合ったり、教員に質問したりしながら進める。
最後の10分リフレクション(振り返り)今日の課題設定(量・質)が適切だったかを検証。間違えた問題(自分の伸びしろ)を振り返りシートに記録する。

「85点」の課題設定と「失敗をシェアする」安心の教室風土

自由進度学習を成立させるうえで、蓑手先生が子どもたちに伝えているキーワードが「85点を目指す課題設定」です。

全問正解(100点)できる課題は、その子にとって「簡単すぎる(課題設定の失敗)」ということです。逆に半分も解けない課題は「難しすぎる」ことになります。

「ちょっと考えれば解ける、15%くらいは間違える『85点』の難易度こそが、最も成長できるちょうどいい課題である」と提示することで、子どもたちは自分の難易度を主体的に調整するようになります。

このルールの真の狙いは「誰もが必ず失敗を経験する仕組みをつくること」にあります。

毎日全員が間違えた問題(失敗)を見つけ、それを「自分の宝物・伸びしろ」として振り返りに記録し、クラスで共有する。これにより、「失敗しても大丈夫なんだ」「わからないと言っていいんだ」という圧倒的な安心感の土壌が教室に耕されていきます。

前編のまとめ

蓑手先生の「単元またぎ自由進度学習」は、単なる効率的な学習ノウハウではありません。教員がコントロールを手放し、子どもに委ねることで、子ども自身が「自分の得意・不得意」や「効果的な学び方」を体得していくための自己調整学習のシステムです。

続く後編では、一般社団法人学創機構 代表理事の宮田純也とのトークセッション・Q&Aの模様をお届けします。「子どもに任せる不安とどう向き合うか」「評価の付け方」「周囲の教員や保護者への説明」など、現場の先生方が抱えるリアルな悩みに迫ります。

登壇者紹介

蓑手章吾 先生(HILLOCK初等中等部 運営ディレクター)

都内に4校展開するオルタナティブスクールHILLOCK初等中等部を創設、運営。元東京学芸大学の非常勤講師(「教育の情報化基礎」の授業を担当)、経済産業省「未来の教室」メンター、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員も勤める。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達科学で修士(教育学)を取得。特別支援2種免許を所有。ICT活用に関しても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。プログラミング教育で全国的に有名な前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。現在は、教育コンサルタント会社「風と土」の代表として、様々な企業のアドバイザーやアンバサダー、研究会や講演会の講師を年間100本程度、及び執筆活動などを行っている。主著『苦手な子の「できた!」が増える!単元またぎ自由進度学習』『個別最適な学びを実現するICTの使い方』『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』(すべて学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)

1991年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにして一般社団法人学創機構(旧:未来の先生フォーラム)代表理事、学校法人宇都宮海星学園理事、横浜市立大学特任准教授を務めるほか、新潮社『Foresight』等のメディアにて学校教育に関する論考の寄稿やフジテレビ系『Live News イット!』、BSテレ東『日経モーニングプラスFT』、TBSラジオ『荻上チキ・Session』にも出演。
単著に『教育ビジネス-子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養-』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『SCHOOL SHIFT』・『SCHOOL SHIFT2』・『SCHOOL SHIFT3』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)