【開催レポート①】「この勉強、将来役に立つんですか?」に向き合う授業SHIFT -探究とキャリア教育をつなぐ-

開催報告
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【開催レポート①】「この勉強、将来役に立つんですか?」に向き合う授業SHIFT -探究とキャリア教育をつなぐ-

「この勉強って役に立つの?」にどう答えるか?探究学習とキャリア教育をつなぐ「自分ごと化」の授業づくり

「先生、この勉強って将来何の役に立つんですか?」

授業中、生徒からこのように問いかけられ、返答に詰まってしまった経験を持つ先生方は少なくないはずです。

日本の生徒は、国際的な学力到達度調査(PISA等)においてトップレベルの成績を収めている一方で、「勉強が楽しい」「学ぶことに意味がある」と感じている割合が諸外国に比べて著しく低いという、本質的な課題を抱えています。テストで良い点を取るための「正解の暗記」に追われ、学びが自分自身の生き方や未来と結びついていない――つまり、学びが「自分ごと」になっていないのです。

こうした課題に対し、学校現場でどのような「授業のSHIFT(転換)」を起こすべきなのでしょうか。

本記事では、ウェビナー「探究とキャリア教育をつなぐ実践づくり」の模様を全2回に分けてレポートします。前編となる今回は、立命館宇治中学校・高等学校の酒井淳平先生による講演内容を中心に、探究学習とキャリア教育を融合させる意義と具体的なアプローチについて紐解きます。

日本の生徒が抱える構造的課題――学力は高くても「学ぶ価値」を感じられない現実

講演の冒頭、酒井先生は日本の学校教育が直面している「学力と学習意欲のギャップ」について言及されました。

教科書の内容を完璧に理解し、ペーパーテストで高得点を取る能力は非常に優れているにもかかわらず、「なぜこれを学ぶのか」という問いに対して、多くの生徒が「受験のため」「怒られないため」という受動的な理由しか見出せていません。

この背景には、従来の「工業社会型(収束型)の教育」が長く続いてきた影響があります。あらかじめ用意された正解を効率よく覚える授業スタイルの中では、生徒は「与えられた目標をこなす受動的な存在」になりがちです。

しかし、生成AIが急速に普及し、社会構造が激変するVUCAの時代において、単なる知識の記憶や再生の価値は相対的に低下しています。これからの時代に求められるのは、「自分は何に問題意識を持ち、社会とどのように関わって未来を切り拓くか」という主体的な問い立ての力です。

「探究学習」と「キャリア教育」を一本の線上につなぐ

では、どうすれば生徒の中で学びが「自分ごと」へと変わるのでしょうか。酒井先生が提示された解決策が、「探究学習」と「キャリア教育」の統合です。

一般的に、これら2つは学校現場で別々の領域として扱われがちです。

  • 探究学習: 地域課題や地球規模のテーマなど、「社会」を問う学び
  • キャリア教育: 自分の適性や将来の職業など、「自分」を問う学び

しかし、これらを切り離して考えると、探究学習は「自分とは無関係な遠い社会の問題解決(他人事)」になり、キャリア教育は「自己分析や職業選択という狭い範囲の自己完結(自己満足)」に陥ってしまう危険性があります。

酒井先生は、「社会を問う探究」と「自分を問うキャリア」は本来、切り離せないものであると指摘します。

「社会の課題(探究)に向き合う中で、自分の価値観や興味に気づき(キャリア)、自分という存在(キャリア)を通して社会にどう貢献できるかを考える(探究)。この2つが往還して初めて、社会と自分がつながる『自分ごと化』が達成されます」

酒井先生も執筆した
『SCHOOL SHIFT 3』

授業を変える実践アプローチ――「正解の習得」から「未来の構想」へ

酒井先生の実践では、日々の単元学習や授業の中に「社会と自分の接点」を組み込む工夫がなされています。

  1. 問いの質を変える 問いの質を変える 「この公式を使って問題を解きなさい」という指示から、「この問題、今までの知識でどう解ける?」と公式を自ら発見することを意識させます。また、「学んだ知識を使って自分で問いを立て、データを収集して分析をする」といった正解が一つではない「オープン・エンディッドな問い」も扱います。
  2. 本物(オーセンティック)の社会とつながる 教室の中だけで完結するドリルではなく、実際に地域住民や企業、行政などのステークホルダーにインタビューを行ったり、提案をプレゼンテーションしたりする機会を設けます。「自分のアイデアが社会に届いた」という手応えが、強烈な学びの動機となります。
  3. リフレクション(省察)による「意味づけ」 活動の節目において、「なぜ自分はこのテーマに惹かれたのか」「調査を通じて、自分の中でどんな価値観の変化があったか」を文章化(ジャーナリング)させます。これにより、単なる「調べ学習」で終わらず、生徒自身のキャリア観の深化へとつながります。

第1回のまとめ

「勉強が何の役に立つのか」という生徒の問いは、教育に対する不満ではなく、「自分と学びをつなげてほしい」という切実な SOSでもあります。

探究学習とキャリア教育を一本の線で結び直すことで、教科の知識は単なる「テストの点数」から、未来を構想するための「有効なツール(知恵)」へと姿を変えます。

続く後編では、一般社団法人学創機構 代表理事の宮田純也とのトークセッション・Q&Aの模様をお届けします。「放任と指導のバランス」「学校全体へどう広げるか」など、現場の先生方が抱えるリアルな悩みに対する実践的なアプローチを深掘りします。

登壇者紹介

酒井淳平 先生(立命館宇治中学校・高等学校教諭)

立命館宇治中学校・高等学校教諭。キャリア教育部の立ち上げに関わり、2018年度からは文部科学省の指定を受けて総合的な探究の時間(校内呼称:コア探究)のカリキュラム開発・実践を推進。現在は数学科における探究的な授業づくりや、探究とキャリア教育を接続する実践に取り組んでいる。教科に閉じない学びを設計し、生徒が自ら問いを立て、意思決定していくプロセスを支える教育の在り方を模索している。中央教育審議会生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ委員。

宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)

1991年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにして一般社団法人学創機構(旧:未来の先生フォーラム)代表理事、学校法人宇都宮海星学園理事、横浜市立大学特任准教授を務めるほか、新潮社『Foresight』等のメディアにて学校教育に関する論考の寄稿やフジテレビ系『Live News イット!』、BSテレ東『日経モーニングプラスFT』、TBSラジオ『荻上チキ・Session』にも出演。
単著に『教育ビジネス-子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養-』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『SCHOOL SHIFT』・『SCHOOL SHIFT2』・『SCHOOL SHIFT3』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)