【開催レポート①】「この勉強、将来役に立つんですか?」に向き合う授業SHIFT -探究とキャリア教育をつなぐ-

正解を教える授業から、未来を共創する授業へ!探究×キャリア教育を現場に定着させるヒント
ウェビナー参加レポートの後編では、立命館宇治中学校・高等学校の酒井淳平先生と、一般社団法人学創機構 代表理事の宮田純也によるトークセッション、および参加者の皆様から寄せられた質疑応答(Q&A)の模様をお届けします。
前編で示された「探究学習とキャリア教育の接続」というテーマを、制約の多い実際の学校現場でどのように展開し、定着させていくべきか。教員の役割の変化や評価のあり方、学校文化の変革アプローチについて議論が交わされました。
なぜ生徒は「自分ごと」にできないのか?指導者が陥りがちな落とし穴
トークセッションの冒頭、宮田から「現場で探究学習を推進する際、生徒がなかなか乗ってこない・自分ごとにできないという悩みをよく耳にするが、その原因はどこにあるのか」という問いが投げかけられました。
これに対し酒井先生は、「教員側がテーマやゴールを決めすぎてしまっている(過度な構造化)」という落とし穴を指摘されました。
「よかれと思って『この順番で調べなさい』『このフォーマットでまとめなさい』と細かく指示を出しすぎると、生徒にとっては結局『先生に与えられた課題』になってしまいます。逆に、完全な自由放任にすると、何をしていいか分からずフリーズしてしまう。教員に求められるのは、生徒の『知りたい』という内発的動機を引き出しつつ、迷子にならないための適切な枠組み(フレームワーク)を提供する『バランス感』です」
宮田もこれに同調し、以下のように述べました。
「教員は『答えを知っている教える人(ティーチャー)』から、生徒と同じ目線で問いを深める『伴走者・ファシリテーター』へと役割をSHIFTする必要があります。『先生も答えを知らないから、一緒に考えよう』というスタンスを示すことが、生徒の主体性を引き出す最大の鍵になります」
探究×キャリア教育が生み出す「生徒の変容」
酒井先生の実践において、探究とキャリア教育が結びついたとき、生徒たちにはどのような変化が起きているのでしょうか。当日のセッションで共有されたエピソードが非常に印象的でした。
それまで勉強に対して受動的で、「自分には特に強みがない」と感じていたある生徒が、地域課題の探究を通じて「高齢者と若者をつなぐ対話イベント」を企画しました。準備の過程で様々な挫折を味わいながらも、地域の人々に喜ばれた体験を通して、自身のコミュニケーション能力や企画力に自信を持つようになったといいます。
酒井先生は語ります。 「探究学習を通じて得た最大の成果は、目に見える成果物(プレゼン資料など)そのものではなく、『自分は社会に変化を起こせる存在なんだ』という主体感(Agency)の獲得です。この自信こそが、その後の教科学習に対するモチベーションや、自らの進路を切り拓くキャリア意識へと強固につながっていきます」

『SCHOOL SHIFT 3』
現場の悩みに答えるQ&A:評価・時間・学校内での巻き込み
Q&Aセッションでは、参加者の先生方から寄せられたリアルな質問に対して、酒井先生と宮田が具体的にお答えしました。
Q1. ペーパーテストのように点数をつけにくい探究活動を、どう評価すればよいですか?
- 酒井先生: 「プロダクト(最終成果物)の出来栄えだけで評価しようとすると、器用な生徒が得をしてしまいます。重要なのは『形成的評価(プロセス評価)』です。日々生徒が書き残すリフレクション(振り返りシート)を通じて、『自分の考えがどう変化したか』『どのような試行錯誤をしたか』という『変容のプロセス』を評価の軸に置くことが大切です」
- 宮田: 「ポートフォリオなどを活用して成長のプロセスを可視化することは、生徒にとっても自分の歩みを振り返る貴重なキャリアデータになります」
Q2. 探究やキャリア教育に理解を示してくれない周囲の教員を、どう巻き込めばよいですか?
- 酒井先生: 「いきなり『学年全体でやりましょう』と提案しても反発を生みやすいです。まずは『自分ができる目の前の小さな実践(1時間の授業の変革)』から始めること。そして、探究を通じてイキイキと変化した生徒の姿やプレゼンを、周囲の先生方に見てもらう(観察学習)のが最も効果的です」
- 宮田: 「学校全体を動かそうとするのではなく、有志の小さなチームで成功事例をつくること。その『小さなSHIFT』の積み重ねが、やがて学校全体の文化を変えていきます」
おわりに(総括):未来の「授業」を自分たちの手で創る
全2回にわたりお送りしたウェビナーレポート。今回の学びをまとめると、以下の3つのポイントに集約されます。
- 学びの接続(探究×キャリア): 「社会を問う探究」と「自分を問うキャリア」を一体化させることで、学びが真の「自分ごと」になる。
- 教員の役割シフト: 一方向的に正解を「教える人」から、問いを共に深め、生徒の挑戦を支える「伴走者」へ。
- スモールステップでの実践: 大掛かりな制度改革を待つのではなく、明日の1時間の授業から「小さなSHIFT」を重ねていく。
「学校」という仕組みや「授業」の形は、決して固定されたものではありません。目の前の子どもたちの未来のために、先生方一人ひとりが挑戦し、柔軟に変え直していくことができるものです。
「正解を覚える授業」から「未来を構想する授業」へ。 本ウェビナーのレポートが、日々の授業づくりに向き合う全国の先生方にとって、明日からの教室で使える小さな一歩のヒントとなれば幸いです。
登壇者紹介
酒井淳平 先生(立命館宇治中学校・高等学校教諭)

立命館宇治中学校・高等学校教諭。キャリア教育部の立ち上げに関わり、2018年度からは文部科学省の指定を受けて総合的な探究の時間(校内呼称:コア探究)のカリキュラム開発・実践を推進。現在は数学科における探究的な授業づくりや、探究とキャリア教育を接続する実践に取り組んでいる。教科に閉じない学びを設計し、生徒が自ら問いを立て、意思決定していくプロセスを支える教育の在り方を模索している。中央教育審議会生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ委員。
宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)

1991年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにして一般社団法人学創機構(旧:未来の先生フォーラム)代表理事、学校法人宇都宮海星学園理事、横浜市立大学特任准教授を務めるほか、新潮社『Foresight』等のメディアにて学校教育に関する論考の寄稿やフジテレビ系『Live News イット!』、BSテレ東『日経モーニングプラスFT』、TBSラジオ『荻上チキ・Session』にも出演。
単著に『教育ビジネス-子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養-』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『SCHOOL SHIFT』・『SCHOOL SHIFT2』・『SCHOOL SHIFT3』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)


