【開催レポート②】一斉授業以外の選択肢を!「子どもに任せる」ことで学びが変わる——単元またぎ自由進度学習の実践と授業観SHIFT

開催報告
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【開催レポート②】一斉授業以外の選択肢を!「子どもに任せる」ことで学びが変わる——単元またぎ自由進度学習の実践と授業観SHIFT

「評価」や「理・社での展開」はどうする? 宮田純也×蓑手章吾が語る、自由進度学習の悩みと実践

ウェビナー参加レポートの後編では、一般社団法人学創機構 代表理事の宮田純也と、HILLOCK初等中等部 創設・運営ディレクターの蓑手章吾先生によるトークセッション、および全国の参加者の先生方から寄せられた質疑応答(Q&A)の模様をお届けします。

前編で示された「単元またぎ自由進度学習」の実践を踏まえ、教員自身が抱える「任せることへの不安」の乗り越え方から、「振り返りシートの記述」「理科・社会での展開」「評価(観点別評価 vs 個人内評価)の葛藤」「生徒同士の学び合い」「教材準備」まで、現場のリアルな問いに迫る対話が繰り広げられました。

トークセッション:教員の「任せる不安」とAI時代の「学校の価値」

宮田:蓑手先生の実践を伺って大変刺激を受けました。一方で、一斉授業から自由進度学習へと踏み出す際、多くの先生が「子どもに任せて学習が成り立つのか」という強い不安を抱きます。この「任せる不安」とどのように向き合えばよいでしょうか?

蓑手先生:自由進度学習の具体的手法は、本や研修会などでいくらでも手に入ります。しかし手法を探す前に大切なのは、「なぜ試したいのか」「どこに不安を感じているのか」と自分の内面に向き合うことです。

·       進度がバラバラになるのが耐えられないのか?

·       子どもたちが楽しそうに学ぶことにモヤモヤするのか?

·       テストの平均点が下がることが許せないのか?

·       同僚や保護者からの反発が怖いのか?

蓑手先生:この「不安の正体」こそが、教員自身の教育観をSHIFTする最適な足場になります。自分の根っこにある価値観と正対し、問い続けることが本当の授業変革の第一歩です。

宮田:先生自身の感情や価値観と正対することが、学びのSHIFTの第一歩ということですね。また、AIやデジタルツールによって知識の習得が学校外でも容易になった今、子どもたちが同じ教室に集まって学ぶ「学校の価値」はどこに移行していくとお考えですか?

蓑手先生:コロナ禍以降の不登校の増加背景には「学校じゃなくても学べてしまう」という現実があります。テストの点数を取るための狭義の学力は、AIやオンライン教材で手に入る時代です。しかし、心が通う嬉しさや他者と協働する悦び、そして子どもが「自身(自分という人間)を知る」という体験は、学校という場だからこそ育まれます。自分の特性や「学びやすさ・学びにくさ」に出会い、自分に合った成長の仕方を獲得する。その試行錯誤が許される最高の実験場こそが学校なのだと思います。

参加者の疑問に答えるQ&Aセッション

Q1. 学びの蓄積となる「振り返り(リフレクションシート)」はどのように記録させていますか?

宮田:自由進度学習において「振り返り」は単なる感想で終わらせず、学びの蓄積にすることが重要だと言われますが、どのようなシート構成・指導をされているのでしょうか?

蓑手先生:振り返りは主に2つの軸で行わせています。1つは「量」の振り返り(設定した目標量が適切だったか)。もう1つは「質」の振り返り(難易度が『85点=少し失敗する程度』になっていたか)です。

蓑手先生:一番のポイントは「間違えた問題(自分の伸びしろ)」を必ずシートに記録させることです。全問正解だった場合は「85点の課題設定ができなかった失敗」として振り返り、間違えた問題があれば「成長の宝物を見つけられた」と位置づけます。自分のつまずきや思考のプロセスを言語化して蓄積していくことが、自分の特性を知るポートフォリオになります。

蓑手先生も執筆した
『SCHOOL SHIFT 3』

Q2. 自由進度学習は「理科」や「社会」でもできるのでしょうか?それとも探究的な形にしていくべきですか?

宮田:算数などで実践した先生が理科や社会に応用しようとしてモヤモヤされるケースがありますが、教科による相性はあるのでしょうか?

蓑手先生:理科や社会は、算数や国語のような「単線的な自由進度学習」とは相性が異なります。算数は「かけ算の後に割り算」という段階的な積み上げが明確ですが、理科や社会は単元ごとにテーマが独立しています。

蓑手先生:ですので、理科・社会では無理に自由進度という形式に当てはめるのではなく、課題に対して見通しを持ち、調べる・実験する・表現するといった「探究的な学習形態」の中で自己調整力を発揮させるアプローチが適しています。教科特性に応じた授業モデルを選択することが大切です。

宮田:すべての教科を同じ型の自由進度学習にするのではなく、教科の性質に合わせて「探究」と「自由進度」を使い分けることが腹落ちのポイントですね。

Q3. 「目標に準拠した評価(学習指導要領)」と「個人内評価」のギャップにモヤモヤします。実際どう評価すればよいですか?

宮田:現場の先生から非常に多い悩みです。文科省が求める観点別評価(目標に準拠した評価)と、一人ひとりの成長を認める「個人内評価」の狭間でどう折り合いをつければよいでしょうか?

蓑手先生:この2つは対立させるのではなく、「レイヤー(層)を分けて併存させるもの」だと捉えています。

蓑手先生:公教育である以上、制度として求められる観点別評価をつける役割は果たします。しかし、子ども自身へのフィードバックや日々の関わりにおいては、「その子の過去と現在を比べた成長(個人内評価)」を徹底的に価値づけます。制度上の評価をドライにこなしつつ、心の中では個人内評価を軸に据えて子どもに伴走する。この割り切りが先生のモヤモヤを解消してくれます。

Q4. 自由進度学習で「一人きり」になってしまう生徒や、教員がつきっきりになる生徒が出た場合どうすればよいですか?

宮田:一人ひとりの進度がバラバラになると、特定の生徒へ教員の手が取られてしまったり、孤独になってしまう生徒が出ないか心配です。学び合いの構造はどのように促していますか?

蓑手先生:教員一人が全員を個別指導しようとすると必ずパンクします。そこで「教員が教える」のではなく、生徒同士の学び合いや、動画等を活用した一人学びの構造をつくります。

蓑手先生:「質問に来る前に、周りの友達3人に聞いてごらん」「〇〇さんはその単元が得意だから相談しておいで」とファシリテートし、教室内に相互に頼れる関係性を張り巡らせます。子どもたちが助け合える環境(学習エコシステム)を作ることで、孤立を防ぎ、真に支援が必要な子へ教員が時間を割けるようになります。

Q5. どんどん先に進む生徒の教材準備はどのように行っていますか?

宮田:先取りして進む生徒のために、教員が毎回プリントや教材を準備するのは大変ですが、どのような工夫をされていますか?

蓑手先生:教員が手作業で準備する必要はありません。ここでデジタル(ICT)を活用します。

蓑手先生:「eboard」などの無料の学習動画コンテンツや、オンラインの問題データベースを活用すれば、子ども自身が自分の進度に合わせて教材をピックアップして自学できます。教材を「教員が与えるもの」から「子どもが自らアクセスして獲得するもの」へシフトさせることで、教員の準備負担を減らし、子どもの自主性を高められます。

おわりに(総括):子どもを信じて委ねる「小さな一歩」から

今回のセッションを通じて浮き彫りになったのは、自由進度学習とは単なる授業手法ではなく、「教員の指導観と子どもへの信頼」のSHIFTであるということです。

·       1. 自己調整の仕組み化:「85点」の課題設定と「失敗を宝物にする振り返り」で自立的な学び手を育てる。

·       2. 教科特性に応じたモデル選択:算数・国語は進度調整、理科・社会は探究型など、柔軟に組み合わせる。

·       3. 二項対立の克服:制度上の観点別評価を果たしながら、温かい個人内評価で子どもに伴走する。

「子どもに任せる」という挑戦は勇気がいりますが、先生が自分の中の不安と向き合い、1時間の授業から小さく委ねていくことが、目の前の子どもたちの未来を大きく拓く第一歩となります。

登壇者紹介

蓑手章吾 先生(HILLOCK初等中等部 運営ディレクター)

都内に4校展開するオルタナティブスクールHILLOCK初等中等部を創設、運営。元東京学芸大学の非常勤講師(「教育の情報化基礎」の授業を担当)、経済産業省「未来の教室」メンター、文部科学省学校DX戦略アドバイザー、デジタル庁デジタル推進委員も勤める。元公立小学校教員で、教員歴は14年。専門教科は国語で、教師道場修了。特別活動や生活科・総合的な学習の時間についても専門的に学ぶ。特別支援学校でのインクルーシブ教育や、発達の系統性、乳幼児心理学に関心をもち、教鞭を持つ傍ら大学院にも通い、人間発達科学で修士(教育学)を取得。特別支援2種免許を所有。ICT活用に関しても高い関心があり、多くのセミナーや勉強会に参加。ICT CONNECT21が主催する「先生発!最新のICT技術で教育現場を変えるハッカソン」ではグランプリを受賞。プログラミング教育で全国的に有名な前原小学校では、研究主任やICT主任を歴任。現在は、教育コンサルタント会社「風と土」の代表として、様々な企業のアドバイザーやアンバサダー、研究会や講演会の講師を年間100本程度、及び執筆活動などを行っている。主著『苦手な子の「できた!」が増える!単元またぎ自由進度学習』『個別最適な学びを実現するICTの使い方』『子どもが自ら学び出す!自由進度学習のはじめかた』(すべて学陽書房)、共著に『知的障害特別支援学校のICTを活用した授業づくり』(ジアース教育新社)、『before&afterでわかる!研究主任の仕事アップデート』(明治図書出版)など。

宮田純也(一般社団法人学創機構 代表理事)

1991年生まれ。早稲田大学高等学院、早稲田大学教育学部 教育学科 教育学専攻 教育学専修卒業、早稲田大学大学院教育学研究科修了(教育学修士)。大手広告会社などを経て独立後、日本最大級の教育イベント「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」の創設、約2億7千万円の奨学金の創設、通信制高校の設立に関わるなど、プロデューサーとして教育に関する企画や新規事業を実施。2023年には「未来の先生フォーラム」と「株式会社未来の学校教育」を朝日新聞グループに参画させ、子会社社長を務めた。現在はこれまでの実績をもとにして一般社団法人学創機構(旧:未来の先生フォーラム)代表理事、学校法人宇都宮海星学園理事、横浜市立大学特任准教授を務めるほか、新潮社『Foresight』等のメディアにて学校教育に関する論考の寄稿やフジテレビ系『Live News イット!』、BSテレ東『日経モーニングプラスFT』、TBSラジオ『荻上チキ・Session』にも出演。
単著に『教育ビジネス-子育て世代から専門家まで楽しめる教育の教養-』(クロスメディア・パブリッシング)、編著に『SCHOOL SHIFT』・『SCHOOL SHIFT2』・『SCHOOL SHIFT3』(明治図書出版)、監修に『16歳からのライフ・シフト』(リンダ・グラットン,アンドリュー・スコット著:東洋経済新報社)